9月に精神保健分野の専門家の方のご協力をいただき、精神保健分野医療通訳養成講座を開催いたしました。臨床心理士、精神科医、精神保健福祉相談員のご協 力をいただき「精神保健分野の医療通訳者の基礎知識と心構え」「患者を知る、疾患を知る」「精神保健に関わる施設と制度」についてご講義いただきました。
本特集では、その中から「精神保健分野の医療通訳者の基礎知識と心構え」で足利先生のご講義を中心に精神保健分野の医療通訳の基礎知識をご紹介いたしま す。
精神保健とは何か?
【狭義】で言うと・・・
・精神的な疾患ならびに種々の精神的不健康の予防
・精神的健康の保持・向上
【広義】で言うと・・・
・様々な欲求不満や不安を体験しても、著しい不適応状態には陥らずに、精神的健康を維持し、さらに向上させていくこと
を目指しています。
メンタルヘルスの不調の分類
精神や行動など障害など6種類の分類に分けられます。
障害の分類名と疾患名
・生来性精神障害(発達障害など)
・内因性精神障害(精神病、うつ病、躁病、統合失調症)
・心因性精神障害(神経症、うつ状態、パニック障害、対人恐怖症など)
・器質的精神障害(認知症、脳挫傷など)
・症状性精神障害(甲状腺機能亢進症など)
・薬物関連障害(薬物依存、アルコール依存など)
精神保健に関わる者の倫理と姿勢
日本精神科病院協会が出している倫理要綱です。
精神科病院の職員に対しての倫理と姿勢ということは、精神保健に関わる医療通訳者も同様に守ることが求められます。
・精神科病院の倫理
奉仕の精神を持って、自己の技能と良心を医療に捧げるとともに、人間愛をもって患者ならびにその家族に接する。
・人権尊重と守秘義務
特に患者の基本的人権を尊重するとともに、守秘義務についても厳重に守る。
患者・患者家族の接し方(3種類の座り方)
1:対面法 机を挟んで対面で座る
2:並行法 隣通しに座る
3:直角法 机に対して直角に座る
対面法
相手と相対する関係(対立関係)であるので、多少なりとも緊張関係を生じさせることにもなるので、カウンセリングではほとんど取り入れられません。
並行法
親密な関係にある場合によく見られる座り方です。カウンセリングではリラックスし過ぎとなり、
患者様の表情が見えにくく、患者様の中には急に興奮される可能性もあるもおられるので、安全面からもあまり取り入れられていません。
直角法
患者とほどよい「緊張感」と「親密感」を併せ持つことになり、カウンセリング場面での基本の座り方です。
視線を合わすと緊張する患者様、視線を合わわせることによって安心感を持つ患者様もおり、会話中に視線を合わす程度は患者により異なります。
この座り方では視線を合わせたり、剃らせたりするのを時に応じて容易に選択ができるのが利点です。
通訳者が患者様と会話する時にも取り入れられるのではないかと思います。
患者・患者家族との接し方(態度)
1:話を理解しようとする態度を伝える
2:時間をかけて傾聴する
アドバイスをしすぎないこと
返事を用意しない
沈黙を共有することもよい
3:よくない対応
話題をそらす
話をはぐらかす
当たり障りの無い表面的な激励をする
説教する、叱りつける
世間一般の価値観(常識)を押し付ける
患者さんの中には自分が病気であるという自覚がない人、話の内容の意味がわからない人など
もいます。通訳する際に特に対応には気をつけなくてはいけません。
セルフケアの重要性(ストレスによるサイン)
・食欲が出ない
・眠れない
・仕事の集中できない
・体がだるい
・なんとなくやる気が出ない
・決断力が低下する
・マイナス思考になる
・物事や他人に対して興味がなくなる
・笑うことが少なくなる
・自分はだめな人間だと思ってします
医療通訳をしている中で通訳者はストレスを感じることも少なくありません。通訳者自身の自己管理に役立つポイントです。