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多文化共生からダイバーシティ(多様性の尊重と活用) へ


執筆:久我口

 

これまで多くの移民を受け入れてきたEUは「多文化共生」を志向してきましたが、移民の二世代、三世代になっても社会的・経済的に排除される人が増え、ロンドンやパリでは大きな暴動事件も発生しました。現在EUは、移住者や少数者によってもたらされる文化的多様性を、脅威ではなくむしろ好機ととらえ、都市の活力や革新、創造、成長の源泉とする新しい都市政策インターカルチュラル・シティ*を推し進めています。

 

今回は2012年の9月末、欧州評議会の招待でスペインのサンセバスチアン(北東部のバスク自治州)で開催されたインターカルチャラル・シティ・プログラムの会議に出席したアルゼンチン日系二世、アルベルト・松本さんのリポートに注目してみました。

 

記事原文:

http://www.discovernikkei.org/en/journal/authors/matsumoto-alberto/

*欧州評議会が欧州委員会とともに進めているプログラムで、現在、その趣旨に賛同する欧州21都市が参加している。

 

欧州評議会のウェブサイト (英文) :

http://www.coe.int/t/dg4/cultureheritage/culture/cities/default_en.asp

 

 

The Nikkei of Latin America and Latino Nikkei

ダイバーシティーを積極的に活用

 

〜欧州の多文化共生都市会議に参加して学んだこと〜 <抜粋>

By Alberto J. Matsumoto 19 Mar 2013

 

欧州連合は現在加盟国が27カ国で、経済力も社会構造も移民構成も様々である。特に所得の高い主要国(ドイツ、フランス、イギリス等)には数百万人の外国人が存在するため、これまで「多文化共生政策」という寛容策で対応してきたが、現在はダイバーシティー(diversity、多様性の尊重と活用)という言葉を用いて新たな移民統合政策を模索しながら、実施している。

 

欧州連合(EU)の総人口は5億人以上で、域内総生産は日本の3倍あり、一人当たりの平均所得は35,000ドル(約400万円相当)ぐらいだ。しかし、主要十数カ国の生産高と所得を国別にみると、以前からEUに加盟していた国々と近年加盟した国々とでは、3倍以上の格差がある(例えば、ポーランドやハンガリーの所得は平均の3分の1しかないが、ドイツの平均所得はその4倍、北欧諸国は5倍になる)。

 

また、欧州連合の移民統計をみると3、外国人労働者の移動がかなり流動的なのがわかる。一年間で300万人が域内に移住している一方、180万人が出国している(2010年)。外国人労働者の移動は、米国のリーマンショックとEU経済危機後は増加傾向にある。

 

イギリス、ドイツ、スペイン等では、毎年40万人から50万人の新規移民外国人を受け入れているため、現在、域内全土には3200万人の外国人がいるとされ、その内3分の1が域外の国籍を有している(トルコ、アルバニア、ウクライナ、モロッコ、アルジェリア、中国、そして中南米諸国(エクアドル、ブラジル、ドミニカ共和国等)という順である)。もっとも外国人が多い国はドイツで710万人、スペインが570万人、イギリスとイタリアが420万人ぐらいで、フランスが380万人である。この5カ国に全体の7割以上が居住している。

 

今回のサンセバスチアン会議の出席者は、ダイバーシティーというものは非常に複雑で、外国人移民を受け入れた社会はかなりの覚悟が必要であると話していた。各グループや専門家の発表でも、外国人の社会的インクルーション(social inclusion排除の反対)の重要性が主張された。ダイバーシティーを合理的に管理・運営できる仕組みを築くには、自治体や教育機関、そして企業等が積極的に有能な外国人を登用し、それを多様性の手本にするのが社会にとってもプラスに働くという。

 

会議では、インターカルチュラル・シティーという概念が紹介された。これは社会の多様性を付加価値としてうまく利用している町のネットワークであり、欧州の国内外にそのネットワークは広がり、様々なプログラムを行っている。しかし、一つの町(自治体)がネットワーク参加の基準単位となっており、参加できるかどうかは認定機関が様々な指標を数値化してそれを定める必要がある。

 

日本は、この20数年の間にそれまでにはなかった数の外国人を受け入れ、一部の地域ではかなり大きな摩擦が発生し、外国人子弟の未就学問題、高い犯罪件数等が発生している。外国籍住民が2%弱という社会で「多文化共生」という概念にこだわりすぎるとせっかくの共存という目的が空回りしてしまう。

 

ここ10数年、自治体や地元国際交流協会、NPO法人等の活動によって外国人の社会的インクルーションというものはかなり進展したといえるが、問題はいつまでもそうした集団を「マイノリティー、弱者、底辺」と決めつけていることである。定住化が進むにつれ当然同じ国籍でも、日本社会の諸制度をきちんと理解し活用する人もいればそうでない人もいる。

 

日本の場合、国レベルの政策が明確ではなく、未だに永住外国人を移民として位置づけることにためらいがある。しかし様々な支援策や、地域社会の国際化政策や多文化共生政策によって成果も上げてきた。過保護にして自立を妨げた側面も否めないが、これからの日本でも日本なりのダイバーシティー・マネジメント(diversity management)は必須である。国内での国際理解促進、そして海外との交流とビジネス拡大のためにブリッジ(bridge)になってくれる日本人と外国籍人材を増やさなくてならない。

 

アルベルト・松本

 

 

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