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「子宮頸がん予防ワクチン」を一時的に接種の推奨を控えるように厚生労働省が勧告


執筆:高嶋

 

 今年4月の予防接種法改正で定期接種になったばかりの子宮頸がん予防ワクチンについて、6月14日厚生労働省から「HPVワクチン接種の積極的な勧奨を一時中止する。しかし、接種自体を中止するわけではなく、接種希望者については定期接種として接種可能な環境を維持する」旨の勧告が出されました。

 「子宮頸がん」とは子宮の入り口の部分の子宮頸部にできる「がん」です。若い女性(20-39歳)がかかるがんのなかでは「乳がん」の次に多いがんです。子宮頸がんは、数年~数十年後にわたって、持続的にヒトパピローマウイルス(HPV)に感染した後に起こるといわれています。HPVには100種類以上の型があり、主に性行為によって感染します。海外では生活活動を行う女性の50%以上が生涯に一度は感染すると言われ、感染しても多くは自然に排出されます。

 この子宮頸がん予防ワクチンは、子宮頸がん全体の50〜70%の原因とされる16型、18型のHPVの感染やがんになる過程の異常を予防できたとの報告があり、これに引き続いて起こる子宮頸がんの予防効果が期待されています。

 2010年には、国が小学6年~高校1年の女子を対象として、子宮頸がんのワクチン接種の助成を始め、これまで推計328万人の人が接種しました。しかし、1968件の副作用(副反応ともいう。ワクチンの接種を受けた後に生じる、接種部位の腫れや発赤・発熱・発疹などの症状のこと。)の報告があり、そのうち43件は、接種後に体の複数部分に慢性的な痛みが生じるといった従来ない重い副作用です。

 この症状とワクチンとの因果関係は分かっておらず、検討部会では情報が集まり因果関係の有無が確認されるまで、ワクチンの勧奨を一時やめるとの意見が多数を占めました。

 

 医療関係者である私の友人が子宮頸がん予防ワクチンの定期接種導入を求める活動をしていたので、活動が実を結んで良かったなと思っていたら、推奨を一時的に控えるという報道があり驚きました。わずか2カ月という短い期間で、子宮頸がん予防ワクチンの一時的接種の推奨を控える勧告がでたことはとても異例ですが、勇気ある判断だと思います。

 オーストラリアでは、子宮頸がん予防ワクチンの接種は100%公費負担で、12-17歳の女子の7割が接種をしているなど、欧米諸国のなかには子宮頸がん予防ワクチンの接種が公費負担が組み込まれている国も多くあります。このような海外の接種状況もあり、日本産科婦人科学会は以前から子宮頸がんワクチンへの公費負担を求めていたのですが、その学会からも「安全性が確認されるまでの間、強い推奨を一時中止するという勧告は妥当」と声明が出されました。ワクチン導入に力を入れていた学会からの発言に驚きと同時に誠実さも感じました。

 副作用は限りなく出ないようにするのが望ましいですが、副作用ゼロの医薬品の開発はとても困難です。その中で、「副反応のリスクを避けるために子宮頸がんワクチン接種は受けない」という選択は「将来子宮頸がんにかからないようにするための積極的行動はとらない」ということにつながると言えます。これは親にとってとても大きな選択です。

 医療現場でのジレンマを考えさせられました。

 

朝日新聞

http://www.asahi.com/tech_science/update/0614/TKY201306140296.html

日本経済新聞

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG14052_U3A610C1CR8000/

厚生労働省「子宮頸がん予防ワクチンの接種を受ける皆さまへ」

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/pdf/leaflet_h25_6_01.pdf

子宮頸がん予防情報サイト

http://www.shikyukeigan-yobo.jp/world.html

日本産科婦人科学会「声明」

http://www.jsog.or.jp/statement/statement_130624.html